代弁者を探す生き方、自分が発言者になる生き方、考えない生き方

東京の大学を卒業して、大企業に就職し、独立して最近に至るまでに、自分は3つの生き方をしていたように思う。

企業に就職したてホヤホヤの時は、考えない生き方。入社して1−2年ぐらいは、職場の先人達からものすごい勢いでいろんなことを吸収していた。自分の頭で悩んだり、何かを考えていなかったわけではないが、周囲からの吸収量に比べると微塵だった。

インターネットがみんなのモノになってから(ブログが流行りだした頃以降かな、確か2003年の終わり頃だった)は、代弁者を探す生き方。情報発信のコストが著しく小さくなったことが、社会の潮の流れを変えていくはずだ、と思ったのだが、当時そんなことを明快に主張している人は数が少なかった。無論勤務先でもそうだった。勤務先では、これからの情報技術/ビジネスの形は何だろう、というようなことを調査研究したり、実際にパイロットプロジェクトを立ち上げる担当だったが、何ぶん自分一人で、「世の中の潮目がこう変わった!だからXXとかYYに注力すべき」みたいなことを主張するには、非力すぎた。非力すぎる故、代弁者を探して生きていたように思う。2005年4月にシリコンバレー現地法人に赴任して、Web 2.0 Conference 2005に参加して(このタイミングでTim O'ReillyがWhat is Web 2.0?論文を出した)、この盛り上がりは自分が考えていたことが、正しいということの証拠だと思ったし、しばらくして、梅田望夫さんが、「ウェブ進化論」を出版し、自分の考えていることを代弁している本を見つけた!と思ったものだ。「ウェブ進化論」を上司や顧客に自腹で配ったり、「この大企業向けカンファレンスでも、マス広告が効かなくなって、消費者の情報発信へどう対処するかが一番の議題になっている」みたいな報告や記事発表をしたものだ。代弁者をたてて、ちょろちょろと自分の考えていることを主張する生き方だ。

独立して2年半がたち、つい先ほど、代弁者を探す生き方から、言ってみれば、「自分が発言者になる生き方」に変わっていたことに気がついた。Webアプリケーションのアーキテクチャのパターンとして最もポピュラーなMVC(Model View Controller)パターン。今は、MVC全部サーバで動いている、というのが主流だが、今後は、サーバサイドがM、クライアントサイドにVとCを持って来て、ブラウザとサーバの間は基本的にRESTfulにjsonでやり取り、みたいになっていく、みたいな(Life is Beautifulの中島さんや、Aaron Quintsammy.jsフレームワーク)話に大賛成なのだが、大賛成だと思えば、実際にそういう風に自分でWebアプリケーションを作るのみ。上司とか、同僚を説得して、社内開発ルールを変える必要は無い。ブログやTwitterで、「これはいい。信じてるよ!」とストレートに言う。Twitterでfollowしてくれている人たちは、私のその発言を読みとばすか、チームメートならば、ふーん、wizardofcrowdsこういうのに興味があるんだ、というふうに読むか、中には、followしていないにもかかわらず「これ以上賛成できないっていうぐらい賛成したい!」と言ってくる人もいる。なんであれ、特定の反応を気にすること無く、ただ、自分の思ったことをストレートに言う。これが、「自分が発言者になる生き方」、である。へ、つまんないことでしょ?

ところが、だ。大組織に所属している場合、周囲の説得に膨大なエネルギーとそれなりの戦術が必要になってくる。代弁者を見つけて自分の主張を補強するのは一つの戦術だ。ただし、代弁者を探すことが日常になってしまうと、本来一番しっかりしなければならない「この私」の影が薄くなりがちだ。有力な代弁者を見つけられないと、自分が自分でいられなくなる、という、とてもストレスフルな状態である。自己尊厳喪失状態。自分にとっていい精神状態ではない。

ついでなので、少し脱線するが、「この自分にとって」、という立場から離れて、そんな代弁者探しを大事な社員にさせている組織の側にとってもあまりいいことではない。その人が代弁者を見つけて来てからでは、もう手遅れな場合があるということである。イノベーションはそれでは起こせない。代弁者がぞろぞろ出現してきている時点で、もう、その主張は、コモディティ化に向けてまっしぐらなわけで、その流れに追随する他なくなってしまう。その組織が勝者になる公算は著しく低い。Googleは、従業員が「自分が発言者になる生き方」をすることを前提にして組織されているように見えるし、AppleSteve Jobsは、社員が「最近、世の中にこんなことを言っている人がでてきました」なんて言ってくるのを待ってなんかいない、自分から先に発言(製品発表)しているのだ。

ここで、自分が言おうとしていることの代弁者を偶然みつけたので(w)引用しておく。私の尊敬する37signalsの二人が書いた、「小さなチーム、大きな仕事」という本からの引用だ。

p107 「競合相手が何をしているのかなんて気にしない」より

競合他社にたいしてあまり注意を向ける価値はない。なぜなら、...(略)...どのような小さな動きも分析しなければいけなくなる。これはひどい考え方だ。それではストレスと不安に圧倒されるようになる。そんな精神状態は、何を育てるにもひどい土壌となってしまう。...(略)...かわりに自分自身に焦点を当ててみよう。ここで起こっていることは、向こうで起こっていることよりもずっと重要である。...(略)...競合他社にあまりにも注目しすぎていると自分自身の洞察力が希薄になってしまう。他の人々の考えを自分の脳に与え続けていると、すばらしいことを思いつく機会が減少していく。あなたは先見の明を持った人となるのではなく、responsiveな人となる...(略)...


はい、この本、私の代弁者としてすばらしいwwので、是非お読みあれ。昨日、訳注を書きました。訳注はこちら。私はこの本の訳者ではないので、念のため。

小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice)

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